昭和
大工のHさんは、若い頃は「セミ」と呼ばれていたそうです。ハシゴに登って外壁の作業をガンガンしていたからだそうで、職人さんとしてはなかなかにカッコいい通り名だと思います。
父も、若い頃はよくハシゴでペンキを塗っていたそうで、今のペンキ屋は足場があるから幸せだ、と言っています。
令和五年の今日、ハシゴで作業をしている職人さんを見る機会はほとんどありません。世の中はすっかり変わりました。ヘルメットを被って、安全帯を付けて、夏は空調服を着ないと入れない現場もあるそうです。
トルエンが手に入りやすいからペンキ屋になった、みたいなエピソードを持つ職人さんは昭和と共にいなくなり、今の職人さんはトルエンどころかタバコも吸いません。大人しくて真面目なことだけが取り柄の僕としては、もちろん今の方がいいのですが、あの頃の豪放磊落な雰囲気を懐かしく感じる気持ちもあります。トルエンはダメですけど。